昔から私たちの暮らしに寄り添ってきた「へちま」。
夏の庭先にぶら下がる細長い果実は、若いうちは食べられ、成熟すれば繊維を取り出してたわしにすることができる――そんな実用性の高さから、日本の民衆文化や日用品の一部として定着していきました。
植物学的にはインドや熱帯アジア原産のウリ科の一年草とされ、日本へは中国を経由して渡来したと考えられています。
文献上では室町〜江戸期に記録が増え、江戸時代には「へちま水」という化粧水が大奥で用いられたことも知られています。
こうした生活文化への定着が、呼び名にも影響を与えていきました。
なんでいとうりと読まないのか?
さて、漢字で「糸瓜」と書いて「いとうり」と読めそうなのに、現代では普通「へちま」と読まれています。
まず「糸瓜」という表記自体は実物の特徴に由来します。
果実の中の繊維が糸のように見えることから「糸(いと)+瓜(うり)」で「いとうり」と呼ばれたのが起点とされ、辞書や古い文献には「イトウリ」「トウリ」といった別名の表記が残っています。
つまり「いとうり」は元来の説明的な名づけであり、漢字表記としては自然な形成です。
確かに完熟したものを加工してヘチマたわしにできるから糸で出来た瓜と表現されるのは納得です。
江戸時代の言葉遊びがきっかけ
それでも「いとうり」が日常の読みとして残らず「へちま」となったのは、音の変化と語の慣用化が重なった結果だと考えられます。
口語では語の頭の音が落ちることがよくあり、「いとうり」→「とうり」と短く発音されるようになった可能性があります。
江戸時代の人はせっかちなのか一番前にあった発音が省略されてしまったんですね
さらにこの「とうり(トウリ)」という音に対して後世に語呂合わせや語遊び的な説明が加えられ、「ト」はいろは歌の配列で「へ」と「ち」のあいだにある文字だから「へちま」となった
という民間伝承的な説明が広まります。
学問的にはやや説話的な解釈ですが、実際の呼称が変わる過程にはこうした口伝的な語感や遊び心が効いてくるものです。
いろは歌 歌詞
「いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」
こういう言葉遊びが定着して今も残っているものがあったりする。
例えば
スルメをアタリメと読んだりする文化の延長ですね
言葉の定着力は強く、ある読み方が「使いやすさ」や「語感」で支持されると、辞書や教科書に載るよりも先に民衆の会話で広まります。
へちまが食用・薬用・化粧用と多面的に利用されることで、日常語としての出現頻度が上がり、それに伴って「へちま」という音が完全に定着しました。
江戸期の庶民文化や大奥の化粧習慣における「へちま水」のような具体的な利用例が、呼び名を後押ししたとも言えるでしょう。
まとめ
江戸時代の言葉遊びが定着した結果、いとうりと読まなくなった。
最後に強調しておきたいのは、「いとうり」という読みが完全に誤りというわけではないという点です。
和名や古文献、方言資料には「イトウリ」「トウリ」との表記・言及が残っており、辞書にも別名として記載されていることがあります。
とはいえ現代日本語では「へちま」が圧倒的に一般化しており、文字を見て直ちに「いとうり」と読む人は少数派になっています。
言語は生き物のように変わり、漢字表記と口語読みの道筋が必ずしも一直線ではないことを、へちまの名前の歴史は教えてくれます。
(参考に使った主な資料:Wikipedia「ヘチマ」、国立国会図書館の江戸時代の化粧に関する解説、植物・民俗資料ほか。)
ではでは(^ω^)ノシ
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