玉ねぎを切ると涙が出てしまうというのは料理をしたことがある人なら常識ですね
でもどうして涙が出るのかを説明できる人は少ないと思いませんか?
玉ねぎで涙が出る“犯人”は誰なのか
玉ねぎを切ると涙が出る理由、ずっと「硫化アリルって成分が目を刺激するから」と習ってきませんでしたか。
実はこの説明、今では“ざっくり版”だとされています。
最新の研究では、玉ねぎの中で起きている化学反応はもっと複雑で、「隠れたもう1つの酵素」が涙のカギを握っていることが分かっています。
結論から言うと、玉ねぎで涙が出る原因は「玉ねぎの硫黄成分」と「2種類の酵素」が協力して作り出す、syn-プロパンチアール-S-オキシドという「涙を誘う気体」だとされています。
この気体が目に触れることで、「危ないものが来た」と体が判断し、洗い流すために涙が一気に分泌される、という仕組みです。
涙が出る仕組みは研究によって解明された。
昔の説明
「硫化アリルが目や鼻を刺激して涙が出る」とまとめて説明されてきた。今の理解
「硫化アリル系の硫黄成分が、
アリイナーゼ → 中間体 → LFS
という流れで 催涙成分の一員 を生む」
という、もう少し細かいストーリーになっている。
玉ねぎの中で何が起きているのか
1つ目の酵素:アリイナーゼの役割
玉ねぎの細胞の中には、PRENCSOと呼ばれる硫黄を含む成分がたくさん蓄えられています。
名前は難しいですが、ざっくり言えば「辛みや香りのもとになるタネ」のようなものです。
このタネに最初に手を加えるのが、アリイナーゼという酵素です。
包丁で玉ねぎを切ると細胞が壊れ、PRENCSOとアリイナーゼが混ざり合い、まずはスルフェン酸という不安定な中間物質が作られるとされています。
ここまでは、従来から知られていた「1段目の反応」です。
2つ目の酵素:催涙因子合成酵素 LFS
本当に面白くなるのはここからです。
スルフェン酸は、そのまま放っておいても別の成分に変わっていきますが、玉ねぎにはここに「もう一段階」を追加するLFS(Lachrymatory-Factor Synthase)という酵素が隠れていました。
この LFS がスルフェン酸に素早く作用すると、syn-プロパンチアール-S-オキシドという催涙成分に変わります。
これが「玉ねぎの催涙ガス」の正体です。
逆に、LFSが働かずに時間が経つと、スルフェン酸はチオスルフィネートという風味成分に変わるとされています。
つまり、同じ硫黄成分が「涙」になるか「おいしさ」になるかは、LFSの働き方次第というわけです。
玉ねぎの涙が出る成分の流れ
S-1-プロペニルシステインスルホキシド
→(アリイナーゼという酵素が働く)
→ 1-プロペニルスルフェン酸(中間体)1-プロペニルスルフェン酸
→(催涙因子合成酵素 LFS が働く)
→ syn-プロパンチアール-S-オキシド(プロパンチアールS-オキシド)syn-プロパンチアール-S-オキシド
→ 揮発して空気中へ広がる
→ 目の表面(涙の膜)に触れる
→ 粘膜を刺激
→ 目を守るために涙がたくさん出る
ざっくり言うと、
「S-1-プロペニルシステインスルホキシド
→ アリイナーゼ
→ 1-プロペニルスルフェン酸
→ LFS
→ syn-プロパンチアール-S-オキシド
→ 目を刺激して涙」
という一連の流れで、玉ねぎの中の成分が「涙を誘う気体」に変わると考えられています。
「硫化アリルが原因」はもう古い?
学校や一般向けの本では、今でも「硫化アリルが目を刺激して涙が出る」と説明されていることが多いと思います。
これは、昔の研究に基づいた“簡略版”の説明で、硫黄成分全体をまとめて「硫化アリル」と呼んでいた名残のようなものです。
現在の定説に沿って言い直すなら、
硫化アリルやPRENCSOなどは「辛味・香りのもとになる硫黄成分」
本当に涙を誘う主犯は、LFSが作り出す syn-プロパンチアール-S-オキシド
と分けて考えるのが、より正確だとされています。
「硫化アリルが犯人」という話を否定する必要はありませんが、「実はその裏にもう一段階あった」と補足してあげると、雑学としてぐっと面白くなります。
催涙ガスと聞くと危険そうだが…
「玉ねぎの催涙ガス」と言われると、軍事用の催涙ガスを連想して不安になる人もいるかもしれません。
ここで押さえておきたいのは、玉ねぎの催涙成分は 量が非常に少ない という点です。
家庭で玉ねぎを数個刻む程度では、角膜を傷つけるほど強い刺激にはなりにくいとされています。
目が痛くて涙が出るのは、「危険かもしれない成分をすぐ洗い流すための防御反応」であり、涙そのものが目を守る役割を果たしています。
もちろん、目の病気がある人やコンタクトレンズをしている人は刺激を強く感じやすいので、
無理は禁物ですが、玉ねぎの催涙ガスを「軍事用のガスと同じくらい危険」と捉える必要はありません。
イグノーベル賞と「涙の出ないタマネギ」
ここからは、玉ねぎ雑学のハイライトです。
玉ねぎの催涙成分の仕組みを解き明かした研究は、2013年にイグノーベル化学賞として評価されています。
「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる賞で、日本の研究者も何度も受賞していることで知られています。
この研究では、
催涙成分が PRENCSO → スルフェン酸 → syn-プロパンチアール-S-オキシドという流れでできる
その途中で、アリイナーゼとLFSという2種類の酵素が関わる
ということを突き止めています。
そして研究者たちは考えました。
「もし LFS だけの働きを弱めたら、どうなるだろう?」
泣かないタマネギの発想
LFSの働きを抑えれば、
催涙成分(syn-プロパンチアール-S-オキシド)は減る
その分、スルフェン酸が自発的に変わる風味成分(チオスルフィネート)は増えるかもしれない
という、夢のようなシナリオが見えてきます。
そこで登場するのが、RNA干渉(RNAi)という技術です。
これは、特定の遺伝子の働きを弱めるための「スイッチ切り」のような仕組みで、2006年にはノーベル賞にもなっています。
この技術を使って、LFSの遺伝子の働きを抑えた「涙の出ないタマネギ」が、実際に作られています。
実験室レベルでは、催涙成分がぐっと減り、風味成分のバランスも大きく変わったと報告されています。
市販されるようになった“スマイルボール”
ただし、遺伝子組換のタマネギは、日本の法律上、実験室から出せず食べられません。
そこで企業は、もう一つの道を選びます。
アリイナーゼやLFSの働きが弱い系統を探し出す
その系統同士を交配して、分子育種(DNAマーカー育種)という方法で形質を受け継がせる
こうして生まれたのが、「涙のでないタマネギ」として話題になったスマイルボールです。
切ってもほとんど涙が出ず、生食でも辛さが穏やかで、加熱すると甘みが強くなる新しい玉ねぎとして、実際に商品化もされています。
涙と「おいしさ」を分ける分子ドラマ
ここまでの話を一言でまとめると、玉ねぎの中ではこんなドラマが起きています。
同じ硫黄のタネ(PRENCSO)が、アリイナーゼでスルフェン酸に変わる
そのスルフェン酸が、LFSに捕まれば催涙成分に、放っておかれれば風味成分になる
つまり、玉ねぎの涙は「防御のための化学戦略」であり、
その副産物として辛味や香り、加熱後の甘さが生まれている、と考えられています。
「人間から見れば迷惑な涙も、玉ねぎにとっては生き残るための知恵」であり、
「おいしさ」と「涙」が同じ反応系から生まれている、という視点で見ると、キッチンが少し違って見えてきませんか。
よくある疑問にも少し触れておく
冷やすと本当に泣かなくなる?
玉ねぎを冷蔵庫でよく冷やしてから切ると、涙が出にくくなると言われます。
これは、酵素反応には“働きやすい温度”があり、冷やすことでアリイナーゼやLFSの働きが鈍るためだとされています。
ただし「絶対に泣かない」とまでは言えず、切る量や換気、目との距離などでも変わります。効果は「かなりマシになることが多い」くらいのイメージで捉えておくと現実的です。
水にさらす・包丁を研ぐ意味
水にさらすと、水に溶ける成分が流れ出し、催涙成分の元となる物質の一部が減るとされています。
また、よく研いだ包丁を使うと、細胞を「潰さずにスパッと切る」ことができるため、
酵素と基質が混ざる部分が減り、結果として催涙成分の発生が少し抑えられると考えられています。
どれも「涙をゼロにする魔法」というより、玉ねぎが本気で化学兵器を使ってくるのを、少し穏やかにする工夫、と受け止めるとしっくりきます。
誰かに話したくなる「玉ねぎの涙」のまとめ
玉ねぎで涙が出るのは、硫黄成分と2種類の酵素が協力して作った「涙を誘う気体」が目を刺激するからだとされています。
その裏では、同じ反応系から辛味や香り、甘さまで生まれていて、「涙とおいしさを分ける分子スイッチ」として、アリイナーゼとLFSが働いています。
この仕組みを解き明かした研究はイグノーベル賞にもつながり、「涙の出ないタマネギ」やドライアイ検査など、意外な応用も広がり始めています。
次にキッチンで玉ねぎを刻むとき、「今、アリイナーゼとLFSが仕事してるな」と思いながら、
冷蔵庫や包丁やゴーグルをうまく使って、玉ねぎとの“化学戦争”を少しだけ有利に進めてみてください。
あなたは玉ねぎで涙を流した事はありますか?流したことがある方はぜひ体験談を書いていってください
ではでは(^ω^)ノシ
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