山岳地帯の羊飼いは、長い棒を持っているイメージがあります。
ただの杖のように見えますが、実はその棒を使って崖を降りる文化があることをご存じでしょうか。
スペインのカナリア諸島では、羊飼いが棒を地面に突き刺して着地しながら斜面を降りる独特の移動技術が知られています。
この技術は「サルト・デル・パストール」と呼ばれ、険しい地形で生まれた実用的な知恵とされています。
羊飼いが棒で崖を降りる「サルト・デル・パストール」
スペイン領カナリア諸島には、サルト・デル・パストール(Salto del Pastor)と呼ばれる伝統的な移動技術があります。
直訳すると「羊飼いの跳躍」という意味です。
羊飼いは「ガリオーテ」と呼ばれる長い木の棒を持ち、崖や急斜面を移動します。
長さはおよそ3〜4メートルほど。先端には金属が付けられ、地面に突き刺さりやすく作られています。
急な斜面に差しかかると、羊飼いはこの棒を地面に突き立てます。
そして棒を支点にして体重を預け、滑るように斜面を降りていきます。
動画などを見ると、まるでポールを使ってジャンプしているようにも見えます。
実際には落下の勢いを棒で受け止め、ゆっくり減速する仕組みとされています。
練習している動画
なぜこんな移動方法が生まれたのか
この技術が生まれた理由は、カナリア諸島の地形にあります。
この地域は火山活動でできた島が多く、
谷や崖が入り組んだ険しい地形が広がっています。
整備された道が少ないため、羊を追う羊飼いは
斜面や谷を直接移動する必要がありました。
そこで生まれたのが、長い棒を使った移動方法です。
棒は次のような役割を果たします。
斜面で体を支える杖
谷を降りるときのブレーキ
段差を越えるためのポール
つまり一つの道具で、杖・登山ポール・ブレーキの役割を兼ねているのです。
実は「落下ダメージを減らす」合理的な方法
この羊飼いの技術は、見た目以上に理にかなっていると考えられています。
人が高い場所から落ちたとき、危険なのは一瞬で止まる衝撃です。
落下の勢いを短時間で受けるほど、体への負担は大きくなります。
ところが棒を使うと、次のような変化が起こります。
まず棒が地面に刺さり、体重を受け止めます。
そのあと体は棒を支点にしながらゆっくりと移動します。
つまり落下の衝撃を
「時間をかけて分散している」と考えられています。
これは柔道の受け身やパルクールの着地とも似た考え方です。
衝撃を一か所に集中させず、時間や動きの中に分散させることで安全性を高めています。
今では伝統文化として残されている
現在、この技術は日常的な牧羊で使われることは少なくなりました。
しかしカナリア諸島では伝統文化として保存されています。
地域のイベントやデモンストレーションでは、
熟練者が棒を使って斜面を降りる様子を見ることができます。
一見するとアクロバットのようですが、もともとは
険しい地形で暮らす人々の生活の知恵から生まれたものです。
長い棒一本が、山を移動するための重要な道具だったわけです。
険しい土地で暮らす人々は、環境に合わせて独自の技術を生み出してきました。
羊飼いの棒も、ただの杖ではなく、自然と共に生きるための知恵のひとつだったのかもしれません。
ではでは(^ω^)ノシ
この記事もおすすめ
羊の毛が白いのはなぜ?──カラフルな毛色とその理由をやさしく解説

