冬のスケートリンクや凍った道で「ツルッ」と転びそうになるのは誰しも経験があるはず。
約150年前にファラデーが指摘した「氷表面の水の層」から、最新の分子シミュレーション研究まで、氷が滑る仕組みには意外と長い歴史と多彩な説があります。
この記事では、これまで紹介してきた知見を整理し、“氷が滑りやすい本当の理由”をわかりやすくまとめます。
現在、有力な説では氷と足の間に水でも氷でもない状態のH2Oがあると言われています。
他の説が否定された理由も解説していきます。
1. 従来説①:圧力融解説(Pressure Melting)
この説は現在、間違いであると証明されていますが長い間、有力説だと言われていたようです。
- 概要:スケート靴や歩行時の体重による圧力で氷が一時的に融解し、水膜が生じる → 潤滑効果で滑る
- 問題点:
- 圧力だけで融解するには非常に高い力が必要(象がハイヒールで踏んでも溶けない)
- −30℃以下の極低温や、静止している物体でも滑る現象を説明できない
この説が正しいとするならスケートリンクはお客さんがたくさん滑った後、水でびしょびしょになってないとおかしいわけです。
スケートをした事がある人なら正しくない事が分かる説です。
2. 従来説②:摩擦熱生成説(Frictional Heating)
- 概要:靴やソリとの摩擦で発生する熱が氷を部分的に溶かし、水膜を作る → 滑りを助長
- 問題点:
- 動き出す前の静止状態での滑りや、微小な摩擦でも滑る現象を説明しきれない
ほんのちょっとの摩擦で発生する熱じゃ氷は溶けないというかそんな熱で溶ける氷だったら人通りの多い道で水たまりが凍ったりしない気がしますね
3. ファラデーの予言──“氷表面の水”
- 1840年代、マイケル・ファラデーは「氷の表面には常に薄い水の層がある」と推測。
- その後150年以上、圧力説・摩擦熱説と並行して議論されてきたが、決定的な証拠は乏しかった。
4. 2018年発表!「分子コロコロ説」(マックスプランク研)
ドイツ・マインツの研究チーム(永田勇樹博士ら)は、氷表面の水分子結合数の少なさに着目。
- ポイント:表面分子が不安定で“回転するビー玉”のように自由に動ける → 摩擦面上でコロコロ転がるイメージ
- 圧力や熱がなくても、表面分子の“自発的な運動”だけで滑りが起こる──とする新説。
5. 最新研究:分子動力学シミュレーション&機械学習による「準液体層(Quasi-Liquid Layer, QLL)」解析
- MD シミュレーションや原子間力顕微鏡観察で、“氷でも水でもない”分子層の実在が裏付けられた。
- QLL の特徴
- 構造層:最外層1分子だけが液体様挙動、下層は固体構造を維持
- 温度依存性:−10℃→−3℃の範囲で厚みが数Å→数nmまで増大
- 結晶面依存性:ベーサル面(上下面)は厚く、プリズム面(側面)はやや薄い
- 動的ヘテロジニティ:分子ごとに液体的挙動と固体的挙動を行き来し、ドメイン(領域)を形成
6. なぜ滑りやすいのか?──分子レベルの解説
- 潤滑層としての QLL
QLL は固体氷と別素材の極薄“液体膜”を作り、摩擦係数を低く保つ。 - 動的ドメインの切り替え
表面分子が領域ごとに“動く/固まる”を繰り返し、摩擦面での分子同士の引っかかりを最小限に。 - 極低温での滑走
QLL は圧力や熱生成に依存しないため、−123℃の研究環境下でも確認された。
液体でも個体でもない準液体がある事で氷の上を歩くと滑りやすくなるというわけです。
まとめ
| 説 | メリット | 課題・限界 |
|---|---|---|
| 圧力融解説 | イメージしやすい | 高圧力条件・静止状態を説明できない |
| 摩擦熱説 | 動いている最中の滑り | 静止時の滑りを説明できない |
| 分子コロコロ説 | 表面分子運動を強調 | 分子構造の直接観察が困難 |
| QLL説 | 分子スケールでの実証 | 層厚や面依存性の定量的予測に研究の余地 |
→ 現在は「準液体層(QLL)」の存在とそのダイナミクスが、氷滑りの本質的な説明として最も支持されています。
圧力融解説や摩擦熱説は氷から水になってるか滑りやすくなるという説、現実では水になっていないから否定されている。
分子コロコロ説から表面でなにか特別な事が起きているという説になっていますね。
おわりに
氷が滑る理由は、単なる“圧力”や“摩擦熱”だけでは語れず、分子レベルの複雑な構造と運動性によって成り立っています。
冬のスポーツや凍結路面の安全対策を考える上でも、このメカニズム理解は重要です。
ではでは(^ω^)ノシ
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参考文献・リンク
- Faraday, M. “Why Is Ice Slippery?” Physics Today, 1859.
- Nagata et al., Max Planck Institute, 2018.
- Steinhardt et al., PCCP, 2022.
- Quasi-Liquid Layer Dynamics, Nature Communications Chemistry, 2024.

