水を限界まで圧縮するとどうなるのか?一般的に水は圧縮できないなんて言われていたりします
最近の研究によると圧縮する事はできる
氷Ⅶという物質になる事が分かっている
とはいえとんでもない環境下でしか存在しない物質なので日常生活で見かける事はまずない
バグ環境でしか存在できない物質です。
はじめに
「水は圧縮できない」——そんなふうに教わった方も多いのではないでしょうか?
確かに、私たちが日常生活で扱う水は、空気のように簡単には押し縮められません。注射器に水を入れて押しても、ほとんど体積が変わらないことからもその性質がわかります。
しかし、「まったく圧縮できない」というわけではありません。
科学の世界では、非常に高い圧力を加えることで、水の体積を縮めることができ、その結果、水は驚くほど不思議な性質を見せるのです。
例えば、近年の研究では、超高圧下で水が液体でありながら氷のような秩序だった構造を持つということが確認されました。
このような現象は、私たちの常識を覆すばかりか、地球の深部や宇宙の環境を理解する上で極めて重要な手がかりとなっています。
本記事では、以下のような視点から「水を限界まで圧縮するとどうなるのか?」を詳しく解説していきます。
- 水の基本的な性質と「圧縮性」とは?
- 実際に水を圧縮するには、どれくらいの圧力が必要なのか?
- 水は高圧下でどう変化するのか?氷との関係は?
- 科学技術や地球科学、宇宙探査にどう活かされるのか?
最先端の研究成果も交えながら、私たちが普段何気なく使っている「水」の、もう一つの顔を一緒に探っていきましょう。
第1章:水の基本的な性質とは?
水分子の構造
水(H₂O)は、1つの酸素原子と2つの水素原子からなる分子です。
酸素と水素の結合角度は約104.5度という独特のV字型をしており、この構造が水の多くの“異常な性質”の源となっています。
例えば:
- 固体(水=氷)が液体(水)よりも密度が小さい → 氷が水に浮く
- 高い表面張力 → 水滴が丸くなる
- 比熱が大きい → 熱しにくく冷めにくい
こうした性質は、水分子同士が**水素結合(すいそけつごう)**という特殊な力で強く引き合っていることに起因します。
液体水の状態と分子間の距離
水分子は液体の状態では自由に動き回っているように見えますが、実は瞬間的に結びついたり離れたりを繰り返しながら動いています。
これは水素結合によって分子が一時的に“ネットワーク”を形成するためです。
このネットワーク構造は、あくまでゆるやかな秩序を持っており、分子間にはある程度の空間が存在しています。
つまり、完全に詰まっているわけではないため、理論上はわずかに圧縮できる余地があるのです。
圧縮性とは何か?
ここで重要なキーワードが「圧縮性(compressibility)」です。これは物質が外から力(圧力)を加えられたときに、体積をどの程度減らすことができるかを示す物理量です。
水の圧縮性は非常に小さいですがゼロではありません。具体的には:
- 常温常圧下での水の圧縮率:約4.6 × 10⁻¹⁰ Pa⁻¹
- 空気の圧縮率と比べると、およそ1/10,000以下
つまり、水はほとんど圧縮できないように見えるが、極限状態では変化が起こりうるということです。
このように、水は一見シンプルな物質でありながら、分子構造や相互作用に多くの秘密を秘めています。
そして、その“わずかな圧縮性”が、次章で紹介するような超高圧下での驚くべき変化へとつながっていくのです。
第2章:水を圧縮するにはどれだけの圧力が必要?
通常の圧力との比較
まず、圧力の単位を簡単におさらいしましょう。
- 1気圧(約101,325 Pa):海面上での大気の圧力。私たちが普段感じている圧力です。
- 深海(例:マリアナ海溝 約11,000m):約1,100気圧(=約110 MPa)
- 自動車のタイヤ内圧:約2~3気圧
- 油圧ショベルの作動圧力:10~30 MPa程度
これらと比べて、水の性質が本格的に変化し始めるのは、2GPa(=20,000気圧)以上の世界。
これは地球上の自然環境ではほとんど存在しない、まさに“異常環境”です。
水に必要な圧縮圧力の目安
以下に、水が相変化を起こす目安の圧力を示します:
| 相転移(状態変化) | 圧力の目安 | 温度条件 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 液体 → 氷 VI | 約1 GPa | 室温 | 高圧でできる氷 |
| 氷 VI → 氷VII | 約2 GPa | 室温 | 分子がより密に並ぶ |
| 氷VII → 氷 X | 約60~70 GPa | 室温以上 | 水素結合が消え、電子が共有されるようになる |
氷VI や 氷VII などの高圧氷(こうあつごおり)は、通常の氷とは全く異なる性質を持っており、これらは「高圧相」と呼ばれます。
超高圧を作る実験装置:ダイヤモンドアンビルセル
これほどの超高圧を作り出すには、特殊な実験装置が必要です。
その代表が ダイヤモンドアンビルセル(Diamond Anvil Cell, DAC) です。
ダイヤモンドアンビルセルとは?
- 2つの天然または人工のダイヤモンドで試料(水など)を挟み、圧力を加える装置。
- ダイヤモンドは地球上で最も硬く透明な物質なので、光・X線・中性子などを通して内部を観測できる。
- 装置の中心部は数ミクロン(1000分の1ミリ)単位の極小空間で、その中に圧力を集中させることでGPa(ギガパスカル)単位の圧力を発生させられる。
この装置を使うことで、室温で10万気圧以上の超高圧下の水を安定して生成・観測することが可能になっています。
J-PARCでの最新研究:中性子で水の構造を“見る”
先日紹介されたJ-PARCの研究(参考:J-PARC ニュース)では、ダイヤモンドアンビルセルと中性子回折という手法を組み合わせ、圧縮された水の中の水素原子の位置までも高精度に観察することができました。
これは、X線では見えにくい軽い元素(水素)を中性子で可視化できるという特長を活かした、世界的にも貴重な成果です。
超高圧という“異常な世界”に水を連れて行くことで、そこには想像もつかないような物理的変化が現れます。
次章では、その変化の詳細を解説していきます。
第3章:水は限界まで圧縮されるとどう変化する?
高圧下での水の相変化:異常な“氷”の世界
私たちが知っている氷(Ice I)は、0℃以下で凍った水で、分子が六角形の格子構造を形成しています。
しかし、高い圧力を加えると、水は通常とは全く異なる「高圧氷」と呼ばれる形に変化します。
以下は代表的な高圧氷の種類です:
| 氷の種類 | 発生圧力 | 特徴 |
|---|---|---|
| 氷 VI | 約1 GPa | 分子がより密に詰まり、対称性が高まる |
| 氷 VII | 約2 GPa〜 | 室温でも安定する構造、立方格子状で非常に密 |
| 氷 X | 約60 GPa〜 | 水素原子が共有され、水分子の区別がなくなる |
氷VIIの特徴とは?
氷VIIは特に注目されています。地球のマントル下部や太陽系外惑星の内部に存在すると考えられ、圧縮された水の“標準形”ともいえる存在です。
- 水分子(H₂O)が非常に規則的に並ぶ
- 水素原子の位置も固定され、“液体なのに氷のよう”な性質を持つ
- 室温でも安定し、極端な高圧下でしか存在しない
この氷VIIは、中性子回折によってその内部構造が可視化されました。
J-PARCの研究では、水素原子の位置までも明確に観測され、氷と液体水の間にある“中間的な状態”が存在することが示唆されました。
圧縮された水は“秩序”を持ち始める?
中性子実験の結果、水は超高圧下において以下のような性質を持つことが明らかになりました:
- 液体なのに、水分子が氷のように一定の方向性をもって並ぶ
- 熱運動はあるが、分子の配置は部分的に“固定”されている
- 完全な液体でもなく、完全な固体でもない「中間相」が存在
これは、水の“異常性”を裏付ける現象です。
普通、液体は分子がバラバラに動きますが、水は特定の条件下で固体に近い秩序だった動きを見せるのです。
氷X:水が“水”でなくなる瞬間
さらに圧力をかけていくと、氷X(アイス・テン)という非常に特異な状態になります。
- 圧力:約60~100 GPa
- 水分子の水素結合が消失
- H₂Oという分子の枠を超え、水素と酸素が共有する“格子”へと変化
- 電気伝導性や量子性が顕著になり、“水”としての認識が崩れる
この状態では、私たちの知っている“水”とはまったく異なる物質へと変貌します。
想像以上に複雑な水の姿
このように、水はただのH₂Oという分子の集合体ではなく、**圧力によってまったく異なる姿を見せる“変幻自在な物質”**なのです。
- 常温常圧:自由に動く液体
- 中圧:高密度液体 or 高圧氷(氷VI, VII)
- 超高圧:分子構造が壊れ、まるで金属のような性質を持つ(氷X)
そして、これらの状態は地球内部や宇宙の極限環境で実際に存在している可能性が高いのです。
ちなみに氷Ⅶや氷Xを通常の環境に放置すると元の水にもどります
氷Ⅶの状態で固定する事ができないかと研究しているそうです。
次章では、この圧縮の限界の先にある理論的な問い――「水を本当に“限界”まで圧縮すると何が起きるのか?」を掘り下げていきます
第4章:理論上の限界とその先にあるもの
圧縮の“限界”とは何か?
これまで見てきたように、水は高圧下でさまざまな相(氷 VI、VII、Xなど)へと変化しますが、どこまで圧縮すれば「限界」と言えるのでしょうか?
物理的には、物質の体積をゼロにすることはできません。
水のような分子でできた物質には、分子間の“隙間”があるため、ある程度までは圧縮できます。
しかし、それにも限度があります。その限界とは:
- 分子間の空間がほぼゼロになる
- 電子の雲(電子殻)が重なり合い、強く反発しはじめる
- 結果として、それ以上の圧縮には天文学的なエネルギーが必要になる
このような状態は、もはや通常の物質の性質を超え、“量子力学”と“核物理学”の領域に突入します。
原子核レベルでの圧縮:核融合は起こるのか?
理論的には、圧力が十分に高くなると、電子が原子核に押し込まれ、物質が“陽子と中性子の集合体”になる可能性があります。
これは、中性子星のような天体で実際に起きている現象です。
中性子星の圧力は?
- 圧力:約10²⁸ Pa(常圧の10²³倍以上!)
- 物質は完全に潰れており、原子核がむき出しの状態
- 1立方センチメートルで、数億トンの質量
ここまで圧縮されると、水であっても“水”ではなくなり、原子核レベルの物質になります。
この状態では、通常の化学結合や分子の概念は通用しません。
核融合は起きるのか?
核融合とは、軽い原子核同士が融合し、より重い原子核を作る反応で、太陽のエネルギー源でもあります。
水素を主体とする水分子が十分に高温・高圧下に置かれると、理論上は水素原子核(陽子)が融合する可能性があります。
ただし、これは単に“圧縮する”だけでは足りず、数百万〜億度の温度が必要です。つまり:
- 超高圧のみでは核融合は起こらない
- 高温と高圧の両方が必要(これは「核融合炉」の基本原理)
したがって、「水を限界まで圧縮したら核融合が起きる」というのは半分正解で半分誤解です。
現実の実験ではどこまで到達できるか?
現在の技術では、ダイヤモンドアンビルセルを使って最大数百GPa程度(氷Xができる圧力)までしか再現できません。
それ以上になると:
- ダイヤモンドが壊れる
- 実験空間が極小になる(ナノスケール)
- 観測が非常に困難になる
そのため、それ以上の極限状態は、スーパーコンピュータによるシミュレーションや、天体観測による推定に頼らざるを得ません。
科学のフロンティアへ
それでも研究者たちは挑戦を続けています。
水という身近な物質を通じて、物質の根本的な性質を探ろうとするこの取り組みは、物理学・地球科学・天体物理学など、さまざまな分野を横断する壮大なプロジェクトなのです。
次章では、このような超高圧の水の研究が、私たちの暮らしや科学技術にどう応用されているのかを見ていきましょう。
第5章:実生活や科学技術への応用はあるのか?
水の圧縮という一見「非日常的」なテーマも、実は私たちの生活や未来の科学技術と深く関わっています。
この章では、超高圧下の水の研究がどのような分野で活用されているのかを具体的に紹介します。
1. 地球内部の水を探る鍵に
私たちが住む地球のマントルや核の深部には、膨大な圧力と高温環境が存在しています。
そのような極限環境でも、水は重要な役割を果たしていると考えられています。
高圧氷は地球の“深部の水”の姿か?
- 地球深部では、水は氷VIIや氷Xのような形で存在している可能性がある。
- これらの氷は非常に安定で、地殻変動やマグマの移動にも関与しているとされる。
- 高圧下の水の挙動を知ることは、地震や火山活動の理解にも直結する。
実例:ダイヤモンド中に閉じ込められたIce VIIの発見
近年、天然のダイヤモンドの内部に氷VIIが閉じ込められていることが発見されました。
これは、地球深部に液体ではない“氷の水”が存在している証拠として注目されました。
2. 宇宙における水の存在を知る手がかり
水は地球だけでなく、宇宙の多くの天体にも存在しています。
特に太陽系外惑星や氷の衛星(エウロパ、ガニメデなど)では、表面の氷の下に超高圧の水や氷があると推測されています。
高圧氷は“宇宙の水”の形かもしれない
- 巨大な重力により、惑星の内部ではIce VIIやIce Xが自然に形成される。
- 地球外生命体の探査において、水の形態と状態を知ることは決定的に重要。
- J-PARCなどの研究成果は、宇宙探査機の観測データの解釈にも役立っている。
3. 新素材開発への応用
高圧環境下では、水だけでなくあらゆる物質の性質が変化します。
これを逆手に取り、常温常圧では得られない新しい素材を作り出すことが可能になります。
高圧科学から生まれる未来の材料
- 半導体や電池材料の新相を開発
- 超伝導体など、エネルギー損失の少ない素材の研究
- 「超高圧処理」により食品の殺菌や保存技術にも応用(※水を使った加圧技術)
水そのものの圧縮に関する知見も、これらの技術開発の基盤になります。
4. 科学的理解を深める「モデル物質」としての水
水は非常に研究が進んでいる物質の一つでありながら、その**挙動が非常に複雑で“例外だらけ”です。
- 圧縮による相転移が多段階に起こる
- 温度・圧力・構造の関係が非線形
- 分子間相互作用(特に水素結合)の解明に最適
これらの理由から、水は**他の物質の研究における“基準”や“モデルケース”**としても重宝されています。
応用だけでなく、「未知の理解」そのものが価値
最後に強調したいのは、こうした研究がもたらすのは**「今すぐ使える技術」だけではない**ということです。
科学の本質は、「なぜそうなるのか?」を突き詰めることで、新しい概念や現象を発見し、未来のブレイクスルーを準備することにあります。
水を限界まで圧縮することで見えてくる、物質の究極の姿。それは、私たちの常識や理解を超えた「新しい物理の扉」を開くかもしれないのです。
まとめ:水の“限界”が教えてくれること
「水を限界まで圧縮するとどうなるか?」
この一見シンプルな問いかけの裏には、驚くほど深く、広い科学の世界が広がっていました。
水は“ほとんど”圧縮できないが、実は…
- 私たちの日常では圧縮不可能に見える水も、超高圧をかければ変化する。
- 高圧下では、液体でありながら氷のように秩序だった構造をとったり、分子構造そのものが変化したりします。
- 氷VI、氷VII、氷Xなど、想像を超える“水のかたち”が存在することがわかっています。
限界のその先へ:物質の根源を探る旅
- 圧力を極限まで高めると、水は電子や原子核レベルの世界へと踏み込んでいきます。
- 中性子星のような天体では、水も含めたすべての物質が、**原子核が密集した“超物質”となって存在しているかもしれません。
- これらの極限状態は、宇宙や地球内部の謎を解明する鍵でもあります。
身近な「水」が未来の科学を開く
- 超高圧下の水の研究は、地震・火山活動の予測、宇宙生命の探索、新素材の開発など、実に多くの分野に波及しています。
- 水という身近な存在を通じて、私たちは物質の本質と、自然界の奥深さを探ることができるのです。
最後に
「水を圧縮する」という単純なテーマから始まりましたが、そこには科学が追い求める**“未知の構造と現象”の宝庫**が広がっていました。
水は、液体でも固体でも、さらには“常識の外側”でも、常に私たちに新しい発見をもたらしてくれる存在です。
そして何より、水のように**「当たり前」と思っているものを、改めて深く探ることが、科学のはじまり**なのかもしれません。
ではでは(^ω^)ノシ

