子どものころ、ディズニーのキラキラ版しか知らなかった話を原典で読んだら「え、これそんなにグロいの…?」って驚いたこと、ありますよね。
実は昔話に「怖さ」が多いのには理由があります。
ここまでの資料(情動と記憶の関係を指摘する研究、そしてマックス・リュティの『ヨーロッパの昔話――その形と本質』の分析)をベースに、読みやすく整理してみます。
要点を先に(1分で掴めるまとめ)
昔話が怖く感じられる主な理由は大きく分けてこんなところです。
- 情動(感情)で記憶を強化するため — 怖い体験を疑似的に与えて、大事な教訓を忘れさせない。
- (リュティの指摘する)物語形式の特徴 — 「一次元性」「孤立性」「平面性」が生む不気味さ。
- 社会的役割 — 危険やタブーを伝えて集団を守る機能。
- 語りのエンタメ性 — スリルは人を惹きつけ、語り継がれやすい。
以下で順に説明します。
1)情動(感情)と記憶:怖さは「忘れない仕掛け」
研究は、感情が強く動く体験が記憶に残りやすいことを示しています。
昔話は実体験ではないにせよ、物語を通して疑似的な感情体験を与えます。
怖さや驚きで心が揺さぶられれば、その物語の教訓(夜道に気をつけろ/見知らぬ人を信用するな など)が子どもの頭に深く刻まれる——これがまず一つの理由です。
つまり、単純に「怖がらせて楽しむ」だけでなく、重要な情報を伝え、忘れさせないための効率的な手段として怖さが使われてきたのです。
2)リュティの三つの特性:不気味さを生む物語の“かたち”
スイスの民俗学者マックス・リュティは、ヨーロッパの昔話に共通する形式的特徴を分析し、次の三つを挙げています。
これが「ただ怖い」以上に“じわじわ来る不気味さ”を生みます。
一次元性
現実と異界(魔女や小人、妖精)が同じ次元で何の説明もなく共存する。
たとえば白雪姫が小人を見て「驚くには驚いたが、すぐに受け入れる」ような描写。
私たちの常識では不自然なはずが、物語世界ではそれが平然と起こる──その「説明なさ」が違和感を生み、不気味に感じさせます。
孤立性
物語の各エピソードが独立していて、登場人物が経験から学ばない。
白雪姫が同じ手口で何度も騙されるように、物語は学習や因果を積み重ねず、エピソードが“殻”で閉じられている。
現実世界の「学ぶ/成長する」期待が裏切られるため、不安を誘います。
平面性
登場人物の内面(感情や痛み、葛藤)が描かれず、淡々と行為だけが並ぶ。
継母が焼けた靴で死ぬ場面でも、周囲の感情描写がほとんどない——この“無表情さ”が冷たく、恐ろしく感じられるのです。
血や暴力があっても感情の奥行きが欠けているため、むしろ生々しさが際立つことがあります。
これら三つが重なると、人間味のない“機械的に進む”物語世界が生まれ、そこにじわじわくる恐ろしさが生まれる――というのがリュティの視点です。
3)昔話の“機能”としての怖さ:教訓と安全装置
昔は情報が少なく、環境の危険(山、海、病気、他者の悪意など)に対する学びを口承で伝える必要がありました。
怖いエピソードは「やってはいけない行動」を強く印象づけるための“社会的安全装置”でした。子どもにただ「駄目だよ」と言うよりも、怖い物語で体験させた方が効果的だったわけです。
また、集団の規範(礼節や罰、復讐や正義のあり方)を示すために、極端で残酷な場面が用いられることもあります。
これらは現代の道徳教育とは違う“厳しさ”を持ちますが、当時の社会維持には合理的だった面もあります。
4)現代アレンジ(ディズニー等)との違い
現代の映画や児童向けのリメイクでは、登場人物に感情や成長を与え、暴力描写や不条理さを薄めます。
そうすることで安心して楽しめる作品になりますが、同時に原典が持っていた独特の不気味さや“形式の鋭さ”は失われます。
ディズニー版が甘くなるのは、現代の受け手が「感情移入」を重視するからでもあります。
具体例で見ると(短く)
- 白雪姫:小人を受け入れる一次元性、何度も騙される孤立性、結末の淡々とした復讐(平面性)。
- 七羽のからす(グリム):妹がためらわず指を切る場面――痛みや葛藤が描かれず、行為だけが淡々と語られる(平面性)。
- 日本の怪談(雪女・鎌鼬):自然や畏怖が登場し、地域の危険を妖怪化して教訓化する点で似た機能を持つ。だが表現のしかた(情緒的な描写や因果の説明)に違いが出ることも多い。
まとめ:怖さは「手段」であり「文体」でもある
昔話の「怖さ」は単なる残酷さではありません。
- 感情を刺激して記憶に刻むための手段であり、
- 登場人物の内面を削ぎ落としたミニマルな文体(リュティのいう一次元性・孤立性・平面性)が生む不気味さでもあります。
そしてそれらは、当時の社会で必要だった「注意喚起」「規範の伝達」「娯楽」の目的に見事に合致していました。
だからこそ、怖い昔話は世界中で語り継がれてきた――というわけです。
怖い話には理由があったんですね
ではでは(^ω^)ノシ
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