動物の雑学

天然アルコール食材の謎:ハネオツパイとバータムヤシの共進化

熱帯アジアの闇にひそむ“天然の酒豪動物”として知られるハネオツパイ(Pen‑tailed treeshrew)。

小さな体でビールに匹敵するアルコールを毎晩せっせと飲み続けるその姿は、まるで動物界の酔っぱらいヒーロー。

今回は、彼らが常用するバータムヤシの発酵蜜から始まり、ハネオツパイの生態、進化、保全までを余すところなくご紹介します。

 

 


1. バータムヤシ(Eugeissona tristis)——発酵蜜を贈る巨木

  • 分布と生息環境
    マレー半島西側沿岸〜丘陵地(海抜1,000 mまで)の熱帯雨林の開けた場所に自生。特にジョホール州のエンダウ・ロンピン国立公園などで多く見られます。また、クアラルンプール近郊のプトラジャヤ植物園でも観賞用に植栽されています。
  • 発酵蜜の正体
    バータムヤシの巨大な花序(花芽)から分泌される甘い蜜には、酵母の働きで自然に発酵したアルコールが含まれ、最大で約3.8%にも達します。人間のビールとほぼ同じ濃度です。
  • 蜜の機能
    本来は昆虫や鳥を引き寄せるための蜜ですが、意図せず酵母を抱き込む構造になっており、結果として発酵蜜を作り出すユニークな戦略をとっています。

2. ハネオツパイ(Ptilocercus lowii)——夜の樹上を駆ける小さな酔わない冒険者

  • 分類と分布
    ツリースルー目ハネオツパイ科に唯一残る現存種。マレー半島、南部タイ、北スマトラ、西ボルネオなど、東南アジア一帯の低中高度熱帯林に棲息します。
  • 外見
    体長13–14 cm、体重40–62 g。アイマスクのような黒い目まわりと、尾の先端2/5が羽毛状にふさふさしているのが特徴です。
  • 生活リズム
    夜行性の樹上棲。昼間は樹洞の巣でじっと体温と代謝を下げて眠り、夜間になると単独で採餌の旅に出ます。

 

ハネオツパイは毎日、バータムヤシの発酵蜜を舐めているという動物としては珍しい飲酒習慣がある人間以外の哺乳類


3. 毎晩ビール相当量を飲む理由――“栄養補給”としてのアルコール

  • 摂取量
    1晩で平均2時間ほどバータムヤシの発酵蜜を舐め続け、人間換算でワイングラス10〜12杯分のアルコールを摂取するといいます。
  • 栄養源としての価値
    アルコールは1gあたり約7kcalと高いエネルギーを持つため、甘い糖分(スクロースや果糖)と合わせて効率よくカロリーを摂れるのが大きなメリット。野生環境で確実にエネルギーを得る手段として、発酵蜜は欠かせない“天然サプリ”なのです。
  • 天敵対策?
    「酔って鈍くなると捕食されやすいのでは?」と思うかもしれませんが、実際には一切酩酊せず、アルコールを高速で分解できる代謝システムを有しているため、動きが鈍ることなく逃げ回れます。あくまで目的は“栄養補給”、天敵回避は間接的な恩恵にすぎません。

4. 代謝と進化――共進化の舞台裏

  • 代謝適応
    人間が主に使うアルコール脱水素酵素(ADH)やアルデヒド脱水素酵素(ALDH)とは異なる、“グルクロン酸抱合経路”を駆使し、アセトアルデヒドなどの有害中間体をすばやく解毒できると考えられています。
  • 古代からの相利共生
    バータムヤシ属は約6,500万年前に分岐した古系統。ハネオツパイもまた原始的ツパイ類の一種で、5,500万年以上大きく変わらずにきた可能性があります。数千万年にわたって形成されてきた、蜜と動物の“天然アルコール食物連鎖”とも呼べる関係です。

全く酔っ払わないのはある意味、羨ましいかもしれませんね

またハネオッパイが発酵蜜をなめる時に花粉がついて受粉を促しているというわけです。

 


5. 繁殖・生態系での役割・保全状況

  • 繁殖
    妊娠約50日で1〜2頭を出産。年2回の繁殖期(2〜4月、6〜10月)に、樹洞で親子が共同生活を送ります。
  • 生態系への貢献
    果実や昆虫を捕食し、種子散布や害虫制御に寄与。発酵蜜を舐めることで偶発的に花粉を運び、バータムヤシの受粉を助ける役割も担います。
  • 天敵と適応
    猛禽類、蛇、小型肉食獣が捕食者ですが、高い樹上機動力と夜行性で捕食圧を回避。アルコール耐性も逃避能力を後押しします。
  • 保全状況
    IUCNでは「Least Concern(軽度懸念)」ながら、生息地破壊による減少傾向が懸念されます。森林伐採やモノカルチャー開発で分布域が断片化しており、今後はモニタリング強化と保全区域の拡充が急務です。

まとめ:自然界が織りなす“酔わない飲みニケーション”

ハネオツパイとバータムヤシが長い年月をかけて築いた、発酵蜜を介する相利共生関係。その核心は「高エネルギー源としてのアルコール」を安全に摂取し続ける動物の驚異的適応能力です。

人類にも通じる「Drunken Monkey 仮説」の一端として、進化・生理・生態の研究モデルとしての魅力も大。

 

森林の夜にこだまする小さな舌音は、自然が生み出した“動物界の夜の宴”の序章かもしれません。

 

ではでは(^ω^)ノシ

 

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