科学の雑学

グルーのパラドックスと帰納法 — やさしい解説

私たちは日常的に「過去にそうだったから、これからもそうだろう」と考えて行動します。

この「過去→未来」をつなぐ思考法が帰納法です。

 

しかし哲学者たちは、帰納の妥当性や“どんな概念で一般化するか”に疑問を投げかけました。

ネルソン・グッドマンが提示したグルーのパラドックスは、その代表例です。

この記事では、帰納法の基礎からヒュームの問題、グッドマンのグルー問題、そして代表的な応答までをわかりやすくまとめます。

 

 

 

1. グルーのパラドックス(直感的説明)

グルー(grue)という新しい述語を次のように定義します(t はある固定時刻):

  • もしある対象が時刻 t より前に観測されたなら「緑色」ならば グルー
  • もし時刻 t 以降に観測されるなら「青色」であれば グルー

つまり「グルー」は観測時期で色が決まる人為的な述語です。
今まで観測したすべてのエメラルドは緑だった ⇒ 同じ観察事実は「未来のエメラルドも緑だ」と支持するが、同時に「今までのエメラルドはすべてグルーだった」でもあり、

その場合は「未来のエメラルドは青だ」と導ける。

 

観測事実は同じなのに矛盾する未来予測を両方正当化してしまう点がパラドックスです(グッドマンの「新しい帰納のなぞ」)。

 

グルーという架空の色は緑でもあり青色でもあると仮定して

緑色のエメラルドも青色のエメラルドもグルーという色だからエメラルドと定義できるという話です。

 

例えば人間の目が進化(もしくは退化)してエメラルドが青く見えるようになる可能性があるかもしれないですね。

そうなるとエメラルドは青い宝石になってしまう。

 


2. 帰納法とは(短く復習)

帰納法は「個別の観察」から「一般法則や予測」を導く推論です。

例:見たカラスが全部黒かった → 「すべてのカラスは黒い」と一般化する。

帰納は科学的推論の基礎でもありますが、観察の数が増えても未来の正しさを絶対に保証するものではない点に注意が必要です(この点が哲学の問題になります)。 (plato.stanford.edu)

 

簡単に言えば去年の夏は暑かったから今年も熱くなるだろうという個人の経験や観察から一般法則である、夏は暑いという答えを導きだしています。

ですが、何億年かの未来では7~8月は寒いかもしれないという事です。

 

 


3. ヒュームが指摘した問題(問題の核)

デイヴィッド・ヒュームは、帰納に頼る「過去と同じ傾向が未来も続く」という前提自体をどう正当化するのかを問題にしました。
端的に言うと、帰納を正当化するためにさらに帰納を用いると循環論法になってしまう――これが「問題の帰納法(problem of induction)」です。

帰納の論理的な基盤を問う古典的な議論で、以降の議論の出発点になっています。

 

 

 


 

 

 


4. なぜこれが問題か(本質)

  • 帰納はどの述語で一般化するかに依存する。
  • 私たちは直感的に「緑」のような述語は自然でプロジェクタブル(未来にも適用できる)だと判断しているが、その「自然さ」をどうやって正当化するかは示されていない。
  • つまり、観測だけでは「どの法則・どの概念がよいか」は決まらない、という問題が浮上します。

例えば6月は日本では梅雨の季節であるというのは常識ですが昔の暦では梅雨は5月になる

つまり6月というのは帰納するべき述語ではないという事になる。

 


5. 代表的な応答(短く比較)

  1. 自然な述語(natural predicates)を優先する
    • 「緑」は自然で「グルー」は人為的、だから前者で帰納すべき、という直感的解。だが“自然”の定義が問われる。
  2. ベイズ的アプローチ
    • 帰納を確率的に扱い、事前確率(prior)で「緑」仮説に高い重みを置く。合理的な更新規則で矛盾は減らせるが、事前の選び方が重要。
  3. 反証主義(カール・ポパー)
    • 帰納で理論を確証するのではなく、反証可能性で理論を評価する。観測は理論を否定する役割を持つと考える(ただしポパーは帰納の正当化自体を提供しない)。
  4. 説明力・簡潔さで選ぶ(オッカムの剃刀等)
    • 同じ観察を説明する仮説のうち、より単純で説明的なものを選ぶ。多くは「エメラルドは緑だ」が選ばれやすい。

まとめ

帰納は日常と科学を支える強力な思考道具だが、グッドマンのグルーのパラドックスは「どの概念で一般化するか」という見落としがちな問題を突きます。

結局、帰納には不確かさ概念選択の恣意性がつきまとう。

科学的判断は観察だけでなく、言語・概念・確率的判断・説明力という別の判断基準にも依存していると理解しておくとよいでしょう。

 

 

ではでは(^ω^)ノシ

 

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参考文献・原典(読者向け)

以下は本文で参照した主要な原典と解説。ブログの「参考文献」欄にそのまま貼れるようにしています。

  • Nelson Goodman, Fact, Fiction, and Forecast (Harvard University Press, 1955).(新帰納問題=グルーの議論の出典)(fitelson.org)
  • Nelson Goodman — Stanford Encyclopedia of Philosophy(解説記事:グッドマンの業績とグルー問題)。(plato.stanford.edu)
  • "The Problem of Induction" — Stanford Encyclopedia of Philosophy(ヒュームの問題の解説)。(plato.stanford.edu)
  • David Hume — Stanford Encyclopedia of Philosophy(ヒュームの原典と簡潔な概説)。(plato.stanford.edu)
  • Karl Popper, The Logic of Scientific Discovery (1934; Eng. trans. 1959) — 反証主義の古典。(philotextes.info, Encyclopedia Britannica)
  • "New riddle of induction" — Wikipedia(入門的まとめ、概念説明)。(ウィキペディア)
  • Stanford Encyclopedia (Formal Learning Theory) — グッドマンの問題と学習理論の関係(技術的解説)。(plato.stanford.edu)
  • 近年の議論例:Schramm 2014 / Philosophia 2024 など、グッドマンの問題に対する様々な現代的解法提案がある(概念の認知的基準やベイズ的・形式理論的アプローチ)。(semanticscholar.org, SpringerLink)

 

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